AT0M
傑作アルバム『孵化』を乗り越え、シングル三部作を発表し生まれた今作。その間にDr石川龍さんの脱退(結果的には保留)というバンドとしての大きな事件があり、ソングライターの小高さんには子供が生まれるという人生における大きなターニングポイントを迎えた。 その中で産声を上げたからだろう。このアルバムには前作を乗り越える抗えない強大な世界にそれでも向き合う力強さと生きることへの迷いを振り払った力強さがあった。『闇を暴け』やシングル三部作はこれまでの作品を愛するリスナーに十分響く名曲だ。『消えたプレヤード』『トライデント』からは喪失を乗り越える力強さを感じる。ここまでで既にこれまでの作品の強さに負けていないことが分かる。 しかし、今作で感動する事はなんと愛に満ちた唄ばかりであるかということだ。『ラブ・ソング』は生まれ来る子供たちに送られた愛の唄であり、『呼吸』『トット』は喪われ逝く命の中で世界に向けた愛の唄であり、『歌いたい』は小高芳太朗という人間がメンバー・スタッフ・家族・リスナー・そして新しい生活を切り開いた自分自身に向けて唄った愛の唄である。 ラブソングという言葉は和訳するならば【恋の歌】と【愛の唄】の二つになるだろう。恋とは盲目的で一方的でそれ故に脆く美しい。しかし愛とは海のように広く世界に向けて放つ。だから必ずしも届くとは限らない。むしろどこにも届かないために人はまだ戦い、傷つく。それは分かっている。ランクヘッドだってそれは分かっている。それでもランクヘッドは伝えたいのだ。愛というものを。 思うに僕らは世界に多くを求めすぎているのだろう。最期にこのアルバムのキーになる曲『スモールワールド』の一説を。これが、僕らの世界のあるべき姿なんだ、そう信じることが出来た。 僕がいて君がいた。だから僕ら出会えたっていうこと。 僕がいて君がいた。それだけでいいだろう。 あったかいな。