転/移
音が人間に及ぼすさまざまな影響こそ、音楽誕生のひとつの原点であることはなんとなく想像できるだろう。たとえば90年代前半にG-クレフのキーボード奏者としてシーンに登場した榊原大。その初ソロ・アルバムは、その後、ミュージシャンとしてだけでなく、アレンジャー、コンポーザーとしてより幅広い活動を続けてきた彼の音楽が、やはりこの出発点に帰ってきたことを示している。つまり、聴き手を特別な空間へと誘う“音”だ。“アコースティック+ピアノ”をベースに、ストリングスやヴォーカルを絡ませて、既成の枠組みを軽々と飛び越したサウンド。漂いながら、それは環境音楽でもなければ、アーバン・ジャズでもない。誰もがそこに感じるのは最先端の鋭さだが、尖りすぎの取っつきにくさとは無縁でもある。“ゲキバン(映画やドラマのバックで流れる音楽)”での経験が見事に活かされたのか? 結果、それは“都市のBGM”と呼ぶにふさわしい、まさしく“飛漂”する音楽となったのだ。